汗彩画  8月16日

今朝、

やっばい!!! パスポート忘れた!!

と飛び起きてから少し考えて、あれ?どっか行くんだったっけ?

海外旅行の予定などなかったことに気がつきました。

昨日人魚の帰り方について考えまくっていたせいで、夢の中でもわたしは人魚のままでした。関空からピーチ航空で帰ろうと、胸のホタテの殻をかざして改札ゲートを抜けました。航空機に乗っている間はずっと、酸素ボンベをつけていました。空の上では、エラ呼吸も肺呼吸もできません。

出国は出来たけど、入国を断られて、パスポートパスポート、と焦って目覚めました。

『人魚』についた山下さんのコメントを読んで、あれは「守られた世界に弾かれた夢」だったのかもしれないと思いました。アートの世界に潜りこめず、境界線をさまよい続けるような。今日のプランの『汗彩画』をしているときも複数のお客さんに「学生さん?」「画家志望なの?」などと言われました。たぶんわたしはすごく「完成品」じゃなく見えるのだろうと思います。

昨日の滝での撮影時も人目にさらされて萎縮しましたが、美術館で人魚をしている時だって、ブリッジだって後頭部だって、わたしはいつもいつも恥ずかしいと思いながらやっていて、もっと言うと、変わった格好をしていなくったって自分の「表現」を「発表」することは死ぬほど恥ずかしいことだと思っています。ではなぜこの道を走っているかというと、もうはじまってしまったからっていうか……。一旦世間に恥をさらしてしまった以上、恥の上塗りを重ねに重ねて自分に復讐することでしか、自らを納得させられないのだと思います。

…なんて嘘、いかに楽して済まそうかを考えての「制作道場」だった。道場のこの毎日は、わたしが次々放つ「超駄作トマソン」におもしろみを見いだしてくださる山下さんが在って、ようやく「作品」の顔をしています。なのでわたしは山下さんのコメントがつくまで境界線をふらついているようですごく肩身が狭いんです。でも、世の美術家は皆山下さんなしに活動しているわけで、本当にわたしはずるいと思う。この「半人前」感が、お客さんに「こいつ大丈夫か」と思わせるのでしょう。まあいいか、人魚だし。半人前半魚後です。

早いもので、制作道場も折り返し地点を過ぎ後半戦に入りました。

今日は『汗彩画』。

初日を思い出し、ルームランナーで走りながらほとばしる汗を水分にして描きました。

f:id:sakamotozenzo_new:20130816232111j:plain筆で汗を受け止めます

f:id:sakamotozenzo_new:20130816232205j:plain画板をおさえてくれた子

f:id:sakamotozenzo_new:20130816232259j:plain人望がありそうな光景

f:id:sakamotozenzo_new:20130816232535j:plain汗がひかぬよう足は休めない

f:id:sakamotozenzo_new:20130816232709j:plain無闇にぼたぼた落ちる汗

f:id:sakamotozenzo_new:20130816233001j:plain汗の雫を補給しようと頭をシェイク

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f:id:sakamotozenzo_new:20130816234319j:plain午後から汗が出にくくなり未完のまま…。

冷や汗ならいくらでも

 

 

----本日の学芸員赤ペン------------------------

このブログを読んでくださっている皆さんからのコメントが寄せられるようになりました。いつも長々と読んでくださってありがとうございます。

皆さんから届いたコメントとくるみちゃんとのやり取りが見やすいように、私のコメントは、くるみちゃんの本文の下に続けて掲載することにしました。

ますます長くなっちゃいますが、よろしくお付き合いくださいませ。

 

さて、汗彩画について。

 

今日の作品を見に来てくれたお客さんが尋ねました。

「どうして汗で描こうと思ったんですか?」

くるみちゃんはこう答える。

「私すごく汗かくので、何か汗もったいなくて」。

 

まさか汗に世界の「MOTTAINAI」の称号が与えられるとは!

そもそもくるみちゃんの汗作品としては、汗で水墨画を描くという汗墨画があります。汗が身近なアスリートとしては、それで作品をつくろうと考えるのはわからないでもないのですが、それがもったいないからだったとは思いもよりませんでした。

 

ルームランナーで走り出したくるみちゃんは、予言どおり見る見る滝のような汗をかき始めました。たちまち水彩可能になり、さらに別のお皿で受けなくてはならないほどたまり、画用紙に落ちる汗玉は透明水彩らしいにじみを作り出します。全身から噴出す汗を走りながら筆にすくい、あるいは頭を振り回して飛び散らせ、顔中絵の具だらけにして絵を描く姿を見ていると、確かに浮かんできます。この言葉「MOTTAINAI」。

汗が物質としてもったいないのではなく、せっかく汗かいているのに、その状況を作品に使わないのはもったいないという、パフォーマー魂が言わせる言葉だったのだ!

 

下界では猛暑続きのようですが、雲の上の国小国ではもう夏もピークを過ぎた感ありで、なんとなく涼しかった今日は、汗作品は大変だったかも知れません。

猛暑にうんざりしている都会の皆様、汗作品に支障をきたすほど涼しい夏の小国にぜひお越しください。若木くるみの制作道場ももう半分を過ぎました。くるみちゃんが夢にうなされるほど全精力を注ぎ込んでいる展覧会が終わっちゃわないうちに!

 

坂本善三美術館 学芸員 山下弘子