休館日  8月26日

昨日美術館が終わってから、小国町のお祭り「お粋な祭」に出ました。

一週間前、出演要請がきて、美術館の宣伝になればと軽い気持ちで快諾してから、行きたくないよーと言い続けて山下さんを困らせた。

f:id:sakamotozenzo_new:20130825233137j:plainチラシの紹介文がひどい。「坂本善三美術館でやってます、あの…w」 

行く前からゲテモノ扱いっぽかった。言わせてもらえば、「お粋な祭」で「おいきなさい」って、そのセンスもどうなんだと思う。投げやりじゃない? しかしわたしは毎日おいきなさいどころじゃない投げやり企画を量産しています。

 

会場は賑やかで、騒々しくて、わたしは髪をほどき後頭部をあけ、舞台に後ろ向きに立った。どよめきも歓声も、あるいは空気が凍てついているのかどうか、もしくはだれも見ていないかどうかもさっぱりわからず、せめて大きな声で元気よく話さなくてはと意気込むと、マイクが「キーン!」と耳障りな音をたててことごとく邪魔をした。そして、後頭部に描きにきてくれる人はおらず、後ろ向きのまま壇上で弱り果てた。司会の人の黄色い服にライトが輝いて、まぶしすぎて自分の目がつぶれればいいと思った。結局かわいい顔の司会の女の子に描いてもらった。

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しかしもちろんこれだけでは持ち時間の20分は消化できず、司会の方が「ハイ!次!やりたい人!」とデジャブをやり始めたので、わたしの中の何かが壊れ、「あの、わたし、お願いがあって!」とマイクをもぎとって叫んだ。「わたしも人の後頭部に描きたいってずっと思っていて! どなたか禿げている方、頭を貸してください!!」

後頭部に描くだけでもだれも来てくれないのになぜ難易度をあげる、と思ったが、3拍くらい置いて、役場勤務だという堅いご職業の方が名乗りをあげてくださった。必要とされているという責任感が彼の役場魂に火をつけたのだろうか。びっくりしすぎて鎮火しそうになった。本当にだれか来てくださるとは期待していなかったため、いざ後頭部を前にして取り乱した。そうこうしているうちに、後頭部を提供するよりはマシだと思ったのか、描き手として女性の方もいらしてくださり、ここにかねてから夢だった後頭部リレーが実現した。

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新品の、100均のホワイトボードマーカーが悪いのか、男性の頭皮の油のせいか、描いても描いてもちっとも色がのらず、ぐいぐいペン先を押し当てるだけ押し当ててあきらめ、マッキーを持ってきてもらった。油性マジックと油は相性が良いはずだが、おにいさんの後頭部はマッキーのインクすらも薄れさせる魔力があって、わたしは、わー。男性的、と思った。そういえば、頭部の形状もシンボリック。

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 おにいさんが後頭部の感触と同時に描いていた線は、わたしの筆圧の混乱も興奮も感じさせない、勢いのないクールな顔で、中学生ワークショップに参加させて鍛え上げたい欲求に駆られた。

マッキーは、洗ったら消えるだろうか。

消えますように、と思う反面、消えなきゃいいのにとも思う。制作道場の広告塔として、役場で小国町の方々に善三美術館をPRしていただきたいと思う。

というのは冗談で、わたしはおにいさんの広大な御心に本当に芯から感謝しています。

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助けてくださってありがとうございました。

 このあとは、あることないことしゃべり倒して、どう壇上を降りたか思い出せない。

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司会の方の隣に無言で佇む柱の黄と黒の配色に虎を思って、早くみんなに会いたい…と思った。善三美術館の、道場の、ほかほかした、ホームに。

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「わたしはみなさんに笑いものにされたいんです」とか言ったのは覚えている。「ドMですね!」と返された。ちがう。MではなくWだ。わたしはお祭りのチラシに「あの…w」と書かれた、この「w」にむかついていたのだった。わたしは自分からすすんで、笑いものになりたくてやってる、すべて望み通りであるってことにしないと我慢できなかったのだと思う。あ…、プライド。結局、祭りのステージで揉まれることへの嫌悪感も、すべてプライド由来だったのか。今までプライドないのが自分の欠点とかぬかしていたけど、実のところ自分は自尊心の塊だった。

みなさん、善三美術館にきてください! 不快音をキーキーたてるマイクに負けじと繰り返した。残る一週間、それだけがわたしの願いです。

 

帰って、膝を抱えて、文体の定まらない日記を書いて、寝た。

 

起きたら川の水位が爆発していて、窓のすぐ下がもう水だった。どうどう走る川の轟音にくるまれて安心した。制作は捗らなかった。

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明日の作品が、ない…

 

----本日の学芸員赤ペン--------------

地域の若者が主催するお祭りの出演依頼が来ること自体、くるみちゃんが如何に町内で注目されているかの証だと思います。ひいては善三美術館が注目されている証だと思いたい。

ステージを降りたくるみちゃんに、見ていたお客さんたちが「おぐチャン(小国チャンネル:小国町のケーブルテレビ)で見てますよ」と芸能人に声かけるように声をかけておられたところにくるみちゃんのスター性を見ました。

それに、3連後頭部はなかなか見ごたえある図だったし、客席の皆さんも、写メの嵐でした。

写メとった皆さん、善三美術館に来れば、有無を言わせず四の五の言わせずもっとすごいもの撮れます。フェイスブックったりツイったりするなら善三美術館で制作道場を見てからしたほうがいいですよ。

来ないと損ですよ。