確認印  8月27日

わたしの前に善三美術館で展覧会をされていた方が置いていかれた、胡蝶蘭と、蘭が入っていたボックスです。

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胡蝶蘭本体には顔を描きましたが、箱のほうは、いかにも何かに使えそうな感じがかえって難しく、作品のアイディアが湧かないまま今日まできてしまいました。せっかくだし使いたいけど、ここからどうせ後頭部でも出すんだろうなあと思うと、先が読めてどうにもつまらなくって…。

 

お客さんから募集していた企画書は、いつの間にか、かなりの数が集まっていました。ありがたく思うほど、そのほとんどを実行できないことは心苦しく、なんとかしてそれらを作品にしたいとずっと考えていました。

 

そこで生まれたのが、今日のこの「確認印」。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827193911j:plain『(  )乃 印』

(  )には顔を出している人の名を。例えば、『(まいちゃん)の印』。

 

f:id:sakamotozenzo_new:20130827194149j:plain山下さんと毎日やりとりしている企画書です。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827194213j:plain ふたりの確認印。

お客さんが書いてくれた企画書にも、ひとつひとつ確認印を捺すことにしました。自分の顔を、印鑑にして。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827195722j:plainのせているのは朱墨液

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f:id:sakamotozenzo_new:20130827195838j:plain目線を落とした先にある、企画書めがけて飛び込みます。ダンボールの体をゆすってはずみをつけて、1、2、3、せーの、で誤って後ろに倒れました。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827200103j:plainコントか。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827200150j:plainこう見ると棺っぽくもありますね。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827200229j:plain大人3人の手を借りて抱き起こされ、次は介助を伴っての挑戦に。

せーの

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ここから2秒、記憶がない。レッドカーペットは思ったよりもずっと硬くて、ハリウッドセレブの足元の、ヒールの痛みを知りました。

 

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全然命中しなかった。

狙いを定めてもう一度。

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今度はきれいに付きました。

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一作一作、印を捺す前に企画書を読み上げます。採用にならなかった理由とともに採点もして、どんどんさばいていきます。

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「次、『おばけやしき』。これは山下さんのお子さん、さくくんのですね。4点!」

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ちなみに100点満点中、です。

ダメ出ししたあげくの採点は相当つらいものがあり、山下さんがいつもどれだけ苦しんでいらっしゃるかがよくわかりました。…と書きたいところですが、わたしは企画を下さった方々がその場にいないのをいいことに、良心の呵責なくばっさばっさと斬っていきました。からい点をつければつけるほど見物客は盛り上がり、わたしの勢いはとどまるところを知らなかった。なんだ、山下さん、気持ちいいんじゃん、赤ペン。と、思いました。

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しかしレッドカーペットのどん突きにカメラを構える山下さんに気づいた途端、道場主を差し置いて調子こいて企画書に赤を入れている自分が恐ろしく、道場破りをしている気分になりました。そして、的外れな批評をして皆がリアクションに困っている回などは、程度が知られた絶望感でわななきました。山下さんはわたしの姿が滑稽すぎて正視に耐えきれず、ファインダー越しの観察をされているのかと思いました。

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企画書の出来不出来によって、自分の顔の表情も変えるつもりでしたが、地面に追突する瞬間はそれどころではなく、決まって目をつむってしまうのでした。現実と向き合うことを先延ばしにしているわけではないのですが、まぶたが、勝手に…。

f:id:sakamotozenzo_new:20130827221006j:plain表情の違いはうまく出せませんでした。

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そして格調高い印鑑を象ったダンボールは所詮ダンボールで、あっという間に再起不能レベルまでぶっ壊れました。水やりもなしに放っておかれてなお威丈高に咲く、モンスターみたいな胡蝶蘭に比べ、箱の命はあまりにあっけないものでした。胡蝶蘭を守っていた箱を破壊したわたしは、つまりは胡蝶蘭よりも強くたくましいということで、自身に漲る生命力を思うと誇らしかったです。例え山下さんに破門されても、生きていこう。無惨に破れたダンボールの中で拳を握りしめました。

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制作道場の、終わりが近づいています。

 

  

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f:id:sakamotozenzo_new:20130827230545j:plain企画書ありがとうございました! まだ、募集しています!

 

---本日の学芸員赤ペン---------

 

「助けてください」というまさかのキャッチフレーズと共に募集し続けてきた、お客様からの企画書が、予想以上にたくさん集まりました。それもくるみ力の一つだったかもしれません。「何かこの人にやらせてみたい」と思わせたり、「こんなおもしろいこと考えていいならオレも考えてみたい」と思わせたり。これまでの作品に見る人を動かす力があったということではないでしょうか。

出された企画の多くは、やはりくるみちゃんに「体を張れ」というものが多く、ちょっとそれは無事ではすまないのでは・・・?というものもあり、ますます若手芸人的な視線を感じないでもなかったですが、どれもみなさんが考えるときに楽しかったんだろうなという雰囲気が伝わってくるものでした。実に自由でした。ご協力ありがとうございました。

そんな皆さんの思いを昇華させたいという思いから、今回の確認印が生まれました。

「体を張れ」といわれた企画に答えられなかったつぐないなのか、本作は、文字通り「体を張った」作品でした。顔面をハンコにして自ら床にダイブするなんて!

実は確認印自体も、本当は後ろの顔でするプランだったのです。しかしもう一つしっくり来ないまま実際ハンコを作ってみると、これは表の顔でやったほうがいいじゃないかということになり、急遽、初の表の顔作品となりました。顔拓。さすが版画科出身らしく伝統ある版画の一種ですね。

こういうときには瞬発力や決断力がものを言います。何しろ当日朝のことだし。スタッフ総出であれこれ準備したり相談している間に、ふっと生まれた些細なアイディアをすぐさま作品に取り入れて軌道修正していく姿は、見ていても胸が躍るものです。

きっと、企画を考えてくださった皆さんも、企画を考えるときはそうだったんじゃないかな。普段は考えなかったようなことを考えて、脳の細胞がむくむく動いたりしたんじゃないかな。ニヤニヤしちゃうような気分になったんじゃないかな。

そうやって胸躍らせていただいたお礼の気持ちのハンコ、お受取ください。

そしてくるみちゃん、みなさんの企画書に初めて目を通すとき、わくわくドキドキしたでしょう?私もいつもそうですよ。赤ペンでぶった切るのが気持ちいいわけじゃないですよ。

 

坂本善三美術館 学芸員 山下弘子