ゴールとリタイア

週末、山岳マラソン大会を走ってきました。

八ヶ岳スーパートレイル100マイルレース。

結果は115kmエイドでリタイア。

走力不足以外に理由はありません。

眠くて眠くて、何度も滑落しそうになって、これから2000m登るという最大の難所を前にやめました。自分の口からリタイア宣言をしたのは初めての経験(過去のリタイアはドクターストップと関門足切りで、どちらもやむをえず)でした。

リタイア自体は賢明な判断だったと思います。

次の関門までの残り時間も超微妙だったし。

途中のエイドステーションでは、ボランティアの方に「去年も出てましたよね!」って声をかけられました。「今年はいい顔で走ってますね〜!」と言われ、そういえば去年は絶命寸前で走ってたっけ? 思い出しました。

去年は、もう、無我夢中で……。けっこう本気で、好成績でゴールしようと思っていて、なんなら優勝までも夢見るくらい。結局低体温症によるドクターストップに終わって、それが人生初リタイアで、くそ泣きじゃくったんだよな〜。今回タイムは前回と比べて4時間以上遅いので、いい顔も当然っていうか、……いい顔とか言われてる場合か?

にこにことご挨拶をしながら、無様なおとなげなさこそがわたしの心棒だったんじゃないのと思いました。

これまでは、目を背けたくなるくらい不格好でみじめでどろどろの状態をキープしたまま、それこそ恥も外聞もなく走り続けることができました。「できました」っていうよりはそれ以外の走りができなかったというほうが正しいです。「レースを楽しむ」とか本当に意味がわからなかった。なんで他のランナーは瀕死になるまで追い込まないんだろうと思っていました。

しかし、ついにレースを楽しんじゃいました〜。

周りの方とおしゃべりしたり、豚汁を味わったり、自分の実力を予測してサクッと諦めたり。

そしてわかったことは「レースを楽しむ」とかろくなもんじゃねーなってこと。わたしにとって「楽しい」の後味は「つまんない」でした。「苦痛を楽しむ」ってよく聞くフレーズだし、自分自身も能天気(愚鈍)な性格だし、いつでもどこでもなんでも楽しめるっていう絶対の自信もあったのですが、……あったのですが…。

自分は、楽しむ能力より苦しむ能力のほうに長けているのではないかと思いました。もっとあざとく言うと苦しむふりが上手いといったほうがいいのかな。顔が…顔がおもしろいんですよね、どう考えても。2文字で言うと簡潔に「ブス」ということになりますが、わたしのファニーフェイスというかユニークフェイスというかパニックフェイスが輝ける持ち場は「苦しみ」以外には恐らくない。または、笑顔の素晴らしさではとても皆に太刀打ちできず、酸素不足に歪んだ苦痛の形相に、唯一無二でいられる活路を見いだそうとしているのかも(わたしはゴールの泣き顔が異様に汚くてランニング雑誌に載ったことがある)。

とにかくレース中ですら、自分にしかできない表現はどこだ、と居場所を模索している自分の姿に、深刻な障害というか、制作道場の後遺症を見ました。そして見つけた答えが「自分の苦しみで皆を笑わせたい」って……どこかで聞いたと思ったら、道場が始まるときにも似たようなこと言ってた。しかし、「自分の苦しみ」がまさか「顔」に収束していくとは思いませんでした。顔芸で笑わせるっていよいよですが、「自分の苦しみで皆を笑わせたい」発言の尊大さは我ながら噴飯ものだったので、顔かよ、っていうオチがついてよかったです。

あと、「苦痛を楽しむ」よりも、「苦痛」は真っ向から「苦痛」として味わってなおそれ自体にエクスタシーを感じるというのがさらに粋な在り方なのではないかと思います。今後もわたしがマラソンを続ける動機がいるのなら、その境地まで至りたいです。なんだかんだ、2年連続のリタイアはやっぱりショックで、走り続けるモチベーションを見失っていたのですが、今大会の完走率は34.1%(前回26、9%)と決して高くはなかったので、それを慰めに来年もう一度……出るのかな。

今回のレースでは、開始早々スズメバチに刺されたのがクライマックスでした。あっ、山下さん! と思いました。倒れたりしたらドラマチックだったのでしょうが、肉が分厚くて深部まで針が届かなかったのか、おびただしい量の汗とともに毒素が排出されてしまったのか、痛みは長く続きませんでした。……山下さんに刺された患部は、ずっと治ってほしくないなあと思います。そして、いつだれに刺されても正しく反応できるよう贅肉を削ぎ落とさなくてはと強く思いました。

一方、ハチ側の心情を考えると、刺されるようなことすんなよ、というのが当然のお話で、なんとも申し訳ない限りです。山下さんは以前から「本来学芸員は表に出るべきではない」とずっとおっしゃっていて、赤ペンをつけることに対する危惧も常々漏らしておられました。作家に意見することに激しく抵抗されていた山下さんをわたしのわがままで引っ張り出すことになってしまいました。本当に心労の絶えない一ヶ月間だったと思います。確実に姥捨て山の登山道を一歩進ませてしまったと思う。次はわたしがエイドをひらくから、そこでゆっくり休憩してくださいー! と言いたいし、山下さんがいつか頂上に行かれることを考えただけでわたしは発狂しそうで、願わくば山下さんには姥捨てレースをなんとかリタイアしてもらいたいのですが、いっそ関わらないことが何よりの命休めになるのだろうなあ、とも……。本当にたくさんご迷惑をおかけしました。山下さんだけでなくチーム+zenの皆さんにも、もっと他の皆さまにも。お騒がせしてすみませんでした。それでもわたしはつるつるぴかぴかで、どうしよう? 戒めに、ネット動画を見ながらコンビニのお菓子を暴食することで荒もうとしています。

「若木くるみの制作道場」、一ヶ月間走り続けてブスな作品もたくさん産んでしまいましたが、どうあれ、これ以上はなかったとやっぱり思うし、ブスな作品ほど忘れられないというのも本音です。

小国は、善三美術館は、山下さんは、毎朝、一日をこじあける勇気をくれて、わたしもまた渾身の「押忍」で一日一日を終われました。最高の道場を用意していただきました。アイディアが出ず、もはやここまでかと思ったことも何度もありましたが、なんとかリタイアせずに日々をつなげたのは、皆さんの支えがあったからです。自分の実力以上の展覧会ができました。ただもう感謝あるのみです。ありがとうございました。

「他力本願寺」で山下さんがしたためた『くるみちゃんがビックになりますように。

そしてビッグになるきっかけとなった善三美術館が大注目を集めますように。』

というお願いが現実のものとなるよう、早く新しい寄生先を見つけたいです。(山下さん以上なんてない)

 

f:id:sakamotozenzo_new:20130902080507j:plain制作道場の畳の張り替え。

f:id:sakamotozenzo_new:20130902080510j:plain足跡が宙を滑っていきました。

なんとなくまだ地に足のつかないような気持ちで最後の日記を書きました。嘘みたいに楽しかった毎日ですが、「楽しい」だけではきっとすぐに忘れてしまうので、苦い記憶を掘り起こそうとして失敗。全部楽しかったんです。忘れたくないけど、日記を読み返す勇気はなく、「恥ずかしいよ〜読み返せないよ〜」と言い合った山下さんがもう隣にいないことがさみしいです。

 

最終日に作家の友人たちがつくってくれたゴールテープを掲載して終わりにします。

f:id:sakamotozenzo_new:20130909095835j:plainf:id:sakamotozenzo_new:20130909095434j:plain

 

繰り返しますが、皆さんのおかげで完走できました。

幸せなゴールです。

ありがとうございました。

 

f:id:sakamotozenzo_new:20130909202627j:plain

作 庄司朝美、麻生知子、武内明子(と皆さまからの寄せ書き)

 

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190658j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190642j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190620j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190601j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190535j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190514j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190455j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190912j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190812j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190753j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190834j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190853j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905191001j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190738j:plain

f:id:sakamotozenzo_new:20130905190425j:plain

 

f:id:sakamotozenzo_new:20130909202638j:plain

 

 

明後日、六甲ミーツアート、スタートします。

若木くるみ